シェルター(英: shelter)は、直訳すれば避難所程度の意味だが、以下のように幾つかのレベルで異なる意味を含む。
- 戦略レベルでは防空壕などの核シェルターを含む避難施設
- 戦術のレベルではバンカー(トーチカ)など簡易の防衛拠点で、塹壕に併設される
- サバイバルの分野では天候などから身を守るための「雨風をしのげる場所」
- 交通機関において、旅客や貨物を雨風から守る施設
- ストレスから逃れられる場所を、比喩的に「(心の)シェルター」との呼び方がある。
- 2007年のアメリカ映画。シェルター (2007年の映画)を参照
- 2010年のアメリカ映画。シェルター (映画)を参照
- DVシェルター、ホームレス緊急一時宿泊施設など、福祉分野における緊急一時宿泊施設などもシェルターと呼ばれる
本項では戦略におけるシェルター、サバイバル分野におけるシェルター、交通機関におけるシェルターについて記述する。
[編集] 戦略上のシェルター
戦略のためのシェルターは、戦争時の各種攻撃を避けて生き延びるために人間が一時的に利用する空間である。その規模は、収容人数数千人規模のもの、会議場などの施設を備えたもの、一般家庭用の小型のものなど様々である。多くは地下に作られ、第二次世界大戦後にはNBC兵器による攻撃を意識したものが建設されるようになる。特に冷戦時には、核兵器への恐怖が高まり、核シェルターが公的にも私的にもあいついで建造された。
一般個人向けなど家族・家庭での利用を想定した小型のシェルター (特に核シェルター) も商品化されており、災害・テロ・戦争に危機感を抱く人々が自宅に設置している。
比較的安価で簡易なシェルターとしては、自宅などの一室を改造して屋内退避するものがある。これは、改造する部屋から窓を無くし(あるいは、外気を遮断可能な窓に改造)壁材を工夫して部屋を補強したうえ、ULPA等の濾過装置つきの換気口と外気を遮断できるドアを設置するものである。有事には密閉し、室外と室内とのつながりを、換気口の濾過装置のフィルタを介しての換気のみとするのである。酸欠防止のため、換気装置は必須である。このシェルターは、核戦争や爆撃に耐えることはできないが、BCR(生物兵器・化学兵器・放射性降下物)に対しては大いに有効である。部屋の造りが強固になることで、強盗の侵入などに対する防犯上の利点も生まれる。
比較的高価で本格的なものとしては、地下を掘削して、プレハブ式のシェルターを組み立てる・コンテナ式のシェルターを嵌め込む・現場でコンクリートを打つなどの方法で施工する。庭やガレージなどに設けたハッチか、地下室と繋がったドアをシェルターの出入り口とする。中には、厚いコンクリートの防音性能を生かした音楽室、地下の環境を生かしたワインセラーなどの機能を兼用するなど、平時にも有効利用できるよう工夫されることがある。建物を新築する際にシェルターを組み込むように施工すれば、建築費を削減できる。
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なおこういったシェルターは、戦争や紛争といった脅威から身を守るだけではなく、ハリケーンなど自然災害から身を守るのにも有効である。このため汎用型の家庭向けシェルターにも、核や生物・化学兵器による大気汚染より身を守る重装備のものから、半地下式で爆撃や災害のみに対応したものまで様々なタイプが見られる。
[編集] シェルターの機能
シェルターには、防火・遮蔽・気密などの機能が求められる。攻撃によってひきおこされた社会的混乱から身を隠す意味も持つ。
核兵器を想定するならば、一次放射線や爆風を避けること、また散らばった放射性物質 (核の灰、フォールアウト) や、そこから発せられる二次放射線による被曝を避けることが目的である。放射線遮蔽機能は、周囲をコンクリートで覆う・地下深いところに設置するなどでそれを実現する。出入り口には、遮蔽効果の高い金属製の厚いドアが用いられる。また、環境を汚染し人体に害を及ぼす放射性物質などを内部に入れてはならないため、気密性がもっとも重要視される。特に出入り口はゴムパッキンなどで密閉しなければならない。それでも利用者の呼吸のためには換気が必須であり、換気装置には高性能な濾過機能を持ったフィルタを取り付けて安全な空気を外部から供給する。
こういった設備を稼動させるためには電力の確保も必要だが、外部からの電力供給に頼っていては大規模な攻撃や災害の際には全く役に立たなくなる。このため自家発電設備を備えるほか、それら発電機の燃料などの備蓄も必要である。例えばディーゼルエンジンなら、普段は家屋の暖房に使っている燃料をそのまま流用できるかもしれない。ただ最悪の場合では、これら電源用の動力源が切れた場合を想定し、空気の濾過器や外部に通じる扉などには人力で動作させられる安全装置が組み込まれる。
シェルターの中は避難生活を送れるだけの環境が必要である。核災害を想定するならば、地上にばら撒かれた化学兵器の有毒成分が分解したり放射性物質が十分に崩壊し、放射線量が安全なレベルに低下するまでの期間をシェルター内でやり過ごす必要がある。その備えとして、非常食や水、薬品など、最低限命をつなぐための物品を置いておくことがある。また放射線防護服などいよいよ一ヶ所に留まっていられないほど危機的な状況に備えての防護措置を備える場合もある。
[編集] 諸外国におけるシェルターの現状
イスラエルとスイスでは、他国からの攻撃に核兵器や生物化学兵器の使用も懸念されるため、学校や病院等の公共施設に市民シェルターがあり、国民には呼吸用の防毒マスクが無料で支給されている。他方、スウェーデン、フィンランド、ノルウェーにも、公共の場に市民シェルターの用意があり、有事の際には国民の大半を収容可能とされる。上記の5か国では、個人がシェルターを持つことも奨励されている。
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イギリスとフランスでは、有事の際に指揮をとる任務にあたる政治家や政府高官のためのシェルターは完備しているものの、公共の場にシェルターはない。シェルターに入れない国民には、屋内退避が指示されることになっている。
[編集] 既存構造物のシェルターとしての利用
地下街・地下鉄・地下駐車場・地下通路なども、シェルターの代わりとして利用することができる。地下深く設置され、厚いコンクリートで覆われ、出入り口にシャッターが設置されているなど、シェルターに必要な要件を多く備えている施設は日本の津々浦々に多数存在する。ただし、これらは特別な改修をされていない限り大量破壊兵器に対しては無力である(後述する)。
ロンドン地下鉄は第二次大戦当時、ロンドン市内目掛けて飛んでくるV1飛行爆弾やV2ロケットによる無差別攻撃から避難した市民でごった返した。ロンドン地下鉄は駅によっては相当な深度にまで掘り抜いた駅もあり、避難所としての機能を果たすと考えられたのであるが、実際には爆撃に耐えられず、多くの犠牲者を出した(en:Balham_tube_station#World_War_II)。イアン・マキューアンの贖罪(つぐない)において、この時の物語が描かれている。
[編集] 日本におけるシェルターの現状
日本におけるシェルター普及率等、現状は不明である。また、公共の場にシェルターを整備する公共事業の計画はない。そのような状況下でも、内閣官房・総務省では、「武力攻撃やテロなどから身を守るために」と題したマニュアルを作成して国民保護に努めている。その内容は、万人が直ちに実践できる民間防衛の要領である。例えば、大量破壊兵器が使用された際、もたらされる有毒ガスや放射性物質を含む外気が建物内に入り内部の人を殺傷してしまう事象に対処するため、できるだけ窓のない一室を選び、目張りなどで密封して簡易的なシェルターに改造する方法(屋内退避)などが示されている。このマニュアル「武力攻撃やテロなどから身を守るために」は、インターネットを通じて国民に広報されており、内閣官房が運� ��する国民保護ポータルサイトにおいて誰でも閲覧することができる[1]。
どのように多くの扉がLARGの建物に必要とされる
東京などの大都市の地下鉄およびその駅について、「核シェルターとして造られた」という話が都市伝説として流れた例がある。特に国会議事堂前駅のように政治・軍事上の要所に近い駅は、こうした噂の題材となりやすい。しかし、「シェルターとして造られた」という噂が証明されたことはないものの、駅の構内に大人数の人々を収容する避難所が設営できることは事実である。ただし、特別な換気装置が駅に備えられていない限り、駅が地下にある特性を生かして核爆発に伴う熱線と爆風を凌ぐことができたとしても、核爆発後に発生する放射性降下物の脅威から人の生命を防護することは絶対に不可能である。放射性物質は、目で見ることも匂いを嗅ぐこともできないが、核爆発後には密閉されていない建物の隙間から侵入して� ��るのである。これは、化学兵器が地下鉄駅構内または付近の地上に散布された場合も同様である。
日本における人口あたりの核シェルター普及率は、NPO法人日本核シェルター協会調べによると0.02%という現状である。(全人口に対し、何%の人を収容できるシェルターが存在するかを基準として)これはスイス・イスラエル100%、アメリカ82%、イギリス67%などと比べても極端に低い。(同協会調べ) また核シェルターを専門とした国内販売業者は、株式会社シェルターコンサルタントや株式会社織部精機製作所など数社に限られている。
[編集] サバイバルにおけるシェルター
人間は自然環境の中で、風雨に晒されるなど体温が下がり低体温症に陥る。また、強い日光などにより熱中症を引き起こす。
こと墜落や遭難などで文明社会から隔絶された環境では、救助を待つ間は十分な医療を受けにくい状態であるから、健康管理は十分に注意を払うべき要素である。その点で風雨や日光を防ぐ場所は体力を温存する上で重要であり、例えばアメリカ軍の歩兵が行うサバイバル訓練では、こういったシェルターの設営も重要な科目に位置付けられている。
最も装備が充実している場合で、寝袋やテントを持っているなら色々な意味で生存に有利である。これらは快適な睡眠環境を整えるための工夫が凝らされており、設置場所を間違えなければ様々な意味で快適な屋外生活が送れる。しかしテントの設置場所を間違えてしまうと、そのメリットが薄れるどころか、逆に危険にさらされてしまう。例えば低地や河の側に設営したために河川が氾濫した時に浸水したり流されたり、野生動物のいる環境ではこれら野生動物にテントを壊されたり寝床を奪われたり、または設置強度が低く風で飛ばされたりといった問題も発生する。
テントがない場合でも、身の回りのものを活用してシェルターを作ることは出来る。パラシュートなどで航空機から脱出した場合には、このパラシュートの有り余る布でテントを作ったり、またはパラシュートの紐(コードと呼ばれる)を使ってシェルターを作る。この場合はナイフを使って様々な工作をすることで、パラシュートからテントやシェルターのほか、食料を確保するための罠の作成方法までもが、歩兵マニュアル上などで見られる。アメリカ先住民族のラコタ族が使うティピーと呼ばれる簡易テントは、同じくらいの長さの木の棒数本の一端を束ねた骨組みに布か皮を巻きつけた円錐型テントだが、これもパラシュートを流用して作り易い。
簡便なものでは、葉の付いたままの枝を横倒しにした木に大量に立てかけて、これを簡易のシェルターとする方法もある。また直射日光を避ける上では、単に木陰というだけでも立派なシェルターである。更に砂漠など昼間は酷暑で夜は寒冷な地帯では、地面に溝を掘ってその両端に土砂を積み上げ、布を二重にして日光と熱をさえぎると、昼間は一枚目の布で直射日光による熱が防がれ、二枚目の布で夜間の放熱が防がれるというシェルターになる。
また雪山や雪原でビバークする必要が発生した時にはイグルー(押し固めた雪のブロックを使って作る、かまくらよりも堅牢なシェルター)とまで行かなくとも、雪洞(積もった雪に穴を掘って内側から壁を押し固めただけ)というシェルターを利用することも出来る。 但しこの場合も雪崩に遭わないよう、設営場所には十分な注意が必要である。
なおゲリラ戦では一種のカモフラージュをしたシェルターを配して待ち構え、敵対勢力の通過を待って罠に掛ける戦術も見られる。
[編集] 交通機関におけるシェルター
駅やバス停、タクシースタンドなどで、旅客や貨物を雨風から守るために設置される覆い(上屋)のことをシェルターと呼ぶことがある。ヨーロッパの大きな駅では、プラットホームと線路全体を覆う巨大なシェルターがしばしば見られ、プラットホームホールなどと呼ばれることもある。 日本においては平成12年の移動円滑化の促進に関する基本方針(交通バリアフリー法)制定後に、高齢者や身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性向上のため、一定規模の駅とバス停との間における通路シェルターの整備が進んでいる。 また、線路や道路、地下道入口を雨や風、雪から防護するために設置するシェルターもある。強風が頻繁に吹く場所で防風壁を設置するのはシェルターの一種である。また積雪地においては、除雪の手間を省き安定した輸送を確保するために全体をシェルターで覆うことがある。札幌市営地下鉄南北線の例がある。さらにトンネルが連続する区間において、トンネル微気圧波対策などの関係から間をつなぐシェルターを設置することがある。
[編集] 関連作品
- ドキュメンタリー「失われた世界の謎」シリーズ(ヒストリーチャンネル)
- 第2回「チャーチルの地下都市」
- 第6回「ヒトラーの巨大都市」
- 第18回「アメリカの秘密の核シェルター」
- 第32回「スターリンの都市改造計画」
- ドキュメンタリー「謎のアンダーワールド2」シリーズ 第19回「モスクワ」(ヒストリー・チャンネル)
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